光と空間の旅
建築への関心
1989年、岐阜県で生まれ、幼少期から10回以上の引っ越しを経験しました。さまざまな環境での暮らしを通じて、建築空間に強い関心を抱くようになり、9歳の頃には建築家になって理想の空間を自分の手で作ることを夢見るようになりました。また、森や川など自然の中で遊び、時には神社で昼寝をしていたときに感じた風、音、匂い、温度といった感覚的な体験が、後の芸術活動に大きな影響を与えました。
探求の始まり
2008年に東京デザイナー学院に入学し、建築と空間デザインを実践的に学びました。2010年に優秀な成績で卒業しましたが、日本社会の不安定さや経済的不況の影響で就職することを断念し、キャリアの方向性を見直すことになりました。その結果、常識に縛られない新たな空間の可能性を模索するため、2012年に多摩美術大学の環境デザイン学科へ進学しました。
光と見立て
多摩美術大学での学びの中で、照明デザイナー内原智史氏や日本庭園デザイナー枡野俊明氏との出会いを通じて、空間に対する視点が大きく変わりました。特に、光の表現や「見立て」に魅了され、空間における光の役割を探求し始めました。2013年には、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に触発され、闇と光の関係性を表現した作品「明暗境界線」で建築家のあかりコンペで最優秀賞を受賞。この経験が、光と空間の相互作用を探求する重要な転機となりました。2015年には、光学現象と空間の関係を表現した「MIRAGE CUBE」を制作し、新たな空間表現を見出しました。
東京藝術大学での研究
2016年に東京藝術大学の修士課程に進学し、同年『空間演出研究所』を共同設立し代表を務め、光と空間に関する表現手法の探求に取り組みました。2018年の修了までに10件以上のプロジェクトを遂行し、作品ごとに光が空間の空気感や感覚に与える影響を深く探りました。修了制作では、自然の光景と光学現象の関係性に注目し、自然が生み出す美しい光景の中に存在する光学現象を捉えた「SKY PATH」を発表しました。
博士号取得と国際的活動
2018年、東京藝術大学の博士課程に進学し、国際的な活動を開始しました。マルタでのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、光と空間への理解をさらに深めるとともに、オランダを含むヨーロッパ5カ国を訪れ、照度計を用いた調査を行いました。特に「オランダの光」とピーター・ズントーの建築体験が、彼の研究に大きな影響を与えました。2020年には、空間表現の要素として「空気感」「光景」「見立て」の三要素を確立した建築作品「Ripple」と、それに基づく論文で博士号を取得。作品は国内外で評価され、11のアワードで17のタイトルを獲得しました。
パンデミックと2度目の博士課程
2021年には海外での活動を予定していましたが、パンデミックの影響で断念しました。その後、東京藝術大学建築研究領域の博士課程に再び進学し、自然の偶然性がおよばす現象のための構造に焦点を当てた独自の研究を開始します。2022年には、自然環境と空間表現の可能性を探求するアーティストデュオ『OSOTO lab.』を設立。2023年より国際的な活動を再開することができ、フィンランドでのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、100箇所近くの建築を訪問。特にユハ・レイヴィスカの建築における詩的な光の体験は、彼にとって大きなインスピレーションとなりました。
現在と未来
彼の現在の挑戦は、環境の照度にかかわらず光を体験できる空間を作り出すこと、そして建築的な構造や素材を用いて現象を操作することです。その背景には、常に自然環境—太陽高度、照度、風速、湿度、天候—とそれらが生み出す空気感があります。これからも多様な表現に挑戦しつつ、彼の探求は「光の空間」という理想を追い続けています。そしてこれまでにない建築と自然の調和を追求し、空間表現の革新を目指しています。