2025.03.01(LUD)
光と空間の旅
建築への関心
1989年、岐阜県に生まれ、幼少期から10回以上の引っ越しを経験した。多様な環境での暮らしを通じて建築空間に強い関心を抱くようになり、9歳の頃には建築家になって理想の空間を自らの手で創り出すことを夢見るようになった。また、森や川といった自然の中で遊び、時には神社で昼寝をする中で、風、音、匂い、温度といった感覚的な体験に強く惹かれるようになり、これらの経験が後の芸術活動に大きな影響を与えた。
探求の始まり
2008年に東京デザイナー学院に入学し、建築と空間デザインを実践的に学ぶ。2010年に優秀な成績で卒業するも、日本社会の不安定さや経済的な不況の影響を受け、キャリアの方向性を見直すこととなった。常識に縛られない新たな空間の可能性を模索するため、独学で2012年に多摩美術大学環境デザイン学科へ進学。
光と見立て
多摩美術大学での学びの中、照明デザイナーの内原智史氏や日本庭園デザイナーである枡野俊明氏との出会いを通じて、空間に対する視点が大きく変わった。特に、光の表現や、日本の美意識である「見立て」の概念に魅了され、空間における光の役割を探求し始める。2013年には、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に触発され、闇と光の関係性を表現した作品「明暗境界線」を制作し、建築家のあかりコンペで最優秀賞を受賞。この経験が、光と空間の相互作用を探求する上での重要な転機となった。2015年には、光学現象と空間の関係を表現した「MIRAGE CUBE」を制作し、新たな空間表現の可能性を評価され学科の最優秀成績で首席卒業。
東京藝術大学での研究
2016年に東京藝術大学の修士課程に進学し、同年アーティストである鈴木太朗氏と「空間演出研究所」を共同設立し代表を務める。光と空間に関する表現手法の探求を本格化し、2018年の修了までに10以上のプロジェクトを手がけた。作品ごとに光が空間の空気感や感覚に与える影響を深く掘り下げ、修了制作では、自然の光景と光学現象の関係性に注目し、自然が生み出す美しい光景の中に存在する光学現象を捉えた「SKY PATH」を発表し、学内賞を受賞した。
博士号取得と国際的活動
2018年に東京藝術大学の博士課程へ進学し、本格的に国際的な活動を開始。マルタでのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、光と空間への理解をさらに深めるとともに、オランダを含むヨーロッパ5カ国を巡り、照度計を用いた調査を実施。特に「オランダの光」とピーター・ズントーの建築体験が研究に大きな影響を与えた。2020年には、空間表現の要素として「空気感」「光景」「見立て」の三要素を確立した建築作品「Ripple」を発表し、それに基づく論文で博士号を取得。作品は、学内選考の野村美術賞をはじめ、JID AWARDで歴代初の大賞・特別賞のダブル受賞を果たし、LITアワードで新鋭最優秀建築照明デザイン賞、BLTアワードでは新鋭最優秀建築デザイン賞を受賞するなど、国内外の主要な11のアワードで17タイトルを獲得した。
パンデミックと2度目の博士課程
2021年より海外での活動を予定していたが、パンデミックの影響で実現が困難となり、東京藝術大学建築研究領域の博士課程に再び進学。構造家である金田充弘氏の指導のもと、光学現象の仕組みを空間構成に応用するための構造研究を開始。2022年には、自然環境と空間表現の可能性を探求するアーティストデュオ「OSOTO lab.」を中山ゆめおと設立。2023年より国際的な活動を再開し、TOKASの二国間交流事業プログラムに派遣クリエーターとして採用され、フィンランドのHIAPに参加。レジデンスでは北欧建築の研究者である小泉隆氏の厚意により、約100の建築を訪問する機会を得た。特にユハ・レイヴィスカの建築における詩的な光の体験が、大きなインスピレーションとなった。
現在と未来
現在の挑戦は、海外での研究と制作を通じて、自然光と建築空間の関係をより深く探求すること。そして、環境の明るさに左右されずに光を体験できる空間を創り出すことを目指し、建築構造や素材を扱って、光の現象を自在に操ることである。その背景には、常に自然環境—太陽高度、照度、風速、湿度、天候—と、それらが生み出す空気感への鋭い観察がある。今後も多様な表現に挑戦しながら、「光の空間」という理想を追求し、建築と自然の新たな調和を実現する革新的な空間表現を目指している。